2018年度 MotionLab卒論・修論要旨

救命救急の学習を目的としたVRシミュレータの提案

近年，救命救急に対する意識は高まりつつあり,AEDの設置場所も普及してきたが，一般市民によって救急隊員が到着する前に応急処置が実施されることはあまり多くない．本研究では，AEDの使い方を体得するとともに救命救急に対する意識の向上を目的として，救命救急の学習を目的としたVRシミュレータの提案を行った．本システムでは，普通救命講習の一部の流れを体験する．仮想空間に表示したAEDとマネキンにコントローラを持った手をかざすことで，AEDの一連の体験や胸骨圧迫を手軽に体験することができる．胸骨圧迫の体験では正しい位置・強さ・テンポを学習することが可能であり，位置は手の位置と正しい場所の距離，強さはコントローラから取得した加速度，テンポは手の動作の周期で判定をしている．また，その場で視覚，聴覚でフィードバックをすることで救命救急に対する意識の向上を図ることが可能となっている．本システムの有用性を評価するために，16人に実際にシステムを体験してもらう実験を行った．その結果，約8割の被験者からAEDのための練習になった，役に立ったという評価を得た．その一方，操作性が難しい，感覚が現実とは違うという意見を得た

飯室恵太, 曽我麻佐子, 救命救急の学習を目的としたVRシミュレータの提案, 映像情報メディア学会技術報告, vol.43, no.4, ME2019-3, pp.5-6, 2019年2月

モーションデータを用いたロードバイクのひじ置き走行動作の分析

本研究の目的は，ロードバイクにおいてひじを置いて走行するペダリングフォームの効果を明確にすることである．そこでモーションキャプチャデータを用いて，通常の漕ぎ方，全力の漕ぎ方，ひじを置いた漕ぎ方を比較した．特徴量として背中の傾き，股関節角度，上から見た脚の開きを求める．背中の傾きは，腰から首へのベクトルが鉛直上向きのベクトルからどれだけ前傾しているかを求める．股関節角度は，腰の中点から首へのベクトルと腰から膝までのベクトルのなす角として求める．5回転分のデータで特徴量を算出し，3つのペダリングフォームの比較を行った，ひじを置いた漕ぎ方は，全力より背中の傾きが小さく，振幅の平均が小さいことからスピードが出せる安定した漕ぎ方であることがわかった．また，柔軟性による股関節角度の限界により，上体を前傾した場合脚が外側へ開くことがわかった．

モーションデータを用いたサイリウムダンスの振付シミュレーションシステム

本研究ではサイリウムダンスの初心者に対する振付創作支援を目的とし，Kinectによって取得した3Dモーションデータを用いてサイリウムダンスの振付をシミュレーションするためのシステムを開発した．サイリウムダンスは技で構成されており，各部分で使える技が決まっている．そこで本システムでは曲のAメロ，Bメロ，サビを異なった条件で選択し，それらを時系列に組み合わせて再生する．各部分には技の選択の際に次に選択できる動きの制約や同じ技が選択できないなどの制約を設けた．サビの部分では32カウントの技を用意し，技によって最後の8カウントだけ異なる動きを入れる．本システムの有用性を確認するために，サイリウムダンスを3年以上続けている4名と初心者2名に本システムを使用してもらい，評価を行った．その結果，本システムは簡単な振付を作成することに適していることを確認した．

モーションデータを用いた少林寺憲法の組演武作成システム

本研究の目的は，少林寺拳法の大会に向けた演武の作成を支援することである．そこで，モーションキャプチャで取得した動きを自由に組み合わせることで組演武を作成し，3DCGでシミュレーション可能なシステムを開発した．組手技において重要な攻守をユーザが決められるようにし，技や構成の連結に必要な構え変更モーションを自動で挿入するようにした．また，大会ルールに基づいた演武の作成を支援するため，技の反復回数の制限や演武の開始と終了時に合掌礼を自動挿入する機能を実装した．本システムの有用性を評価するために，初段取得者5名による評価実験を行った．その結果，システムを活用したいという意見が多く得られため有用性が確認できた．一方，収録技が少ないといった点が課題として挙げられた．

髙味郁哉, 曽我麻佐子, モーションデータを用いた少林寺憲法の組演武作成システム, 映像情報メディア学会技術報告, vol.43, no.4 ME2019-2, pp.3-4, 2019年2月

VRを用いた少林寺拳法の組演武体験システム

現実世界での少林寺拳法の組演武は実際に組む相手を必要とする．また，経験者による手順の解説を必要とするため，実際に体験するまでの敷居が高い．本研究では，少林寺拳法未経験者への興味喚起と技術の習得を目的として，VRを用いて疑似的に組演武を体験できるシステムを開発した．ユーザはHMDと専用コントローラのトラッキング機能を用いて，キャラクタの視点と自身の位置，両手を操作する．VR内で相手キャラクタと対面し，一手順ごとに表示されるアニメーションの動作を手本として，突きや受け，払いなどの動作を入力する．その際の強さ，角度が適切なものかどうかを判定する．また，動作の目標を明確にするために左右で色分けされたターゲットを空間上に表示するようにした．これらの入力に対し，相手がリアルタイムにそれぞれの入力に対応した動作をフィードバックする機能，未経験者に組演武の流れを容易に理解させるために，第三者視点から演武を見ることができる機能を実装した．本システムを12人の被験者に体験してもらい，評価実験を行った．操作性に関する質問では約7割，演武技の動きの理解，興味喚起に関する質問では約8割の被験者から肯定的な回答を得ることができた．

Leap Motionを用いたカロムの遊び支援システム

近年，家庭用ゲーム機やデジタル技術の発展により電子的な遊びが増え，伝統的な玩具で遊ぶ機会は少なくなっている．また，ビリヤードや将棋など昔から存在する遊びを電子化し，高価な遊び道具を用意せずともインターネットに繋がれば手軽に遊べ，また遠方の人とも対戦が楽しめるようになっている．本研究では，カロムというビリヤードとおはじきを組み合わせたような遊びに興味を持ってもらうことを目的とし，Leap Motionを用いてカロムをインタラクティブに遊ぶことができるシステムを開発した．ユーザは玉を弾くジェスチャを行うことで，仮想空間内の玉を弾き飛ばすことができる．ユーザのジェスチャから玉の速さと向きを算出し，物理シミュレーションにより他の玉との衝突を再現する．また，ポイントの加減算，ミスに応じたペナルティの処理等のルールも導入してあり，ユーザはカロムの細かいルールを知らずとも遊べる．本システムを21名に体験してもらい，システムのコンセプトの有用性と操作性について評価してもらった．その結果，本システムはカロムという遊びの興味喚起に効果があるが，弾くジェスチャの認識と玉の動く向きについて課題があることが分かった．

辻村美里, 曽我麻佐子,LeapMotionを用いたカロムの遊び支援システム, インタラクション2019論文集, pp.189-192,2019年3月

VRを用いた幼児事故体験システムの提案

日本に住む子供の怪我の多くに不慮の事故が上げられるが，これらは保護者の知識で予防・対策が可能である．本研究では，幼児の事故原因の理解促進を目的とし，HMDとコントローラを用いて屋内の事故を体験できるVRシミュレータを開発した．本システムでは屋内での事故原因の上位5つである転落・転倒・衝突・誤飲・やけどを幼児のはいはい目線で体験する．誤飲事故体験では，まず誤飲物と手の衝突を判定し，次に誤飲物を保持したまま手と頭部の衝突判定を行う．誤飲物の大きさを表すために付けたタグがSMALLであった時，誤飲事故が発生したと判定する．本システムで再現した事故内容の動画を被験者6人に視聴してもらった結果，理解促進に関して5割から肯定的な回答が得られた．改善点として解説・対策方法の充実が必要であるとわかった．

VRを用いた和装時の振る舞い体験システム

現在の和服は着るにも時間がかかり着付けができる人も少なく，また試着できる環境は少ない．本研究では和服への興味喚起を目的として，HMDとコントローラ用いて仮想空間上でキャラクタを操作し和装時の振る舞い体験ができるシステムを開発した．振る舞い体験として習字を題材とし，袖を手繰り寄せながら袖が硯に触れないように行う．キャラクタの手の動きに合わせて袖をなびかせるために物理演算を使用し，袖の素材を木綿の生地に想定し伸縮率を高くした．またより現実的な体験をするために袖と物体との衝突判定を行い，袖がすり抜けることを防止した．本システムの有用性を評価するために評価実験を行った．その結果本システムは和服の興味喚起に効果があることを確認した．しかしVR空間における袖の見せ方に改善が必要だとわかった．

ARを用いた義肢装具の学習支援システムの提案

AR技術が身近になってきており，教育現場や医療現場など様々なところで利用されている．本研究では，理学療法士を目指す学生を対象とし，AR技術を用いた義肢装具の学習支援システムを開発した．本システムでは，義肢や装具に装着したARマーカをスマートフォン等のカメラに映すことで，その義肢装具に解説テキストや動画を重畳表示する．これにより実物を確認しながら義肢装具の情報を記憶できる．学習者間で知識を共有できるようにするため，教材テキストを学習者がみて，授業に記録したメモをサーバ上に記録，共有できる機能を実装した．また，義肢の複数のパーツの組合せを表現するため，複数のマーカをカメラで同時認識した場合，新たな付加情報を重畳表示する機能を実装した．本システムの有用性を評価するために6人に体験してもらい，操作性，グループ活用，学習支援への活用に関する質問を行った．その結果，マルチマーカに関しては学習支援への有用性が見られたが，メモ機能に対しては改善が必要であることがわかった．

ＣＧと人体モーションを用いた対話型和装シミュレーションの提案

本研究では和服への興味喚起を目的として，和服の柄をユーザがデザインし，CGとアニメーションで鑑賞できるインタラクティブシステムを開発した．本システムでは柄デザインの素材として，和服画像からモティーフ部分切り抜いたものを用意した．ユーザはこの柄素材の選択・配置と地色の選択をすることで，柄をデザインできる．そして，作成したデザインを3Dモデルの着装した和服に反映させることで和服のデザイン体験が可能である．ユーザによる直感的，対話的な操作ができるように，すべての操作は任意のタイミングで行えるようにし，デザインを作成する工程はすべてリアルタイムにCGに反映されるようにした．また，CGに割り当てられた人体モーションを再生することで，人体アニメーションに合わせて動く袖の様子を鑑賞することができる．本システムの有用性を評価するために評価実験を行った．その結果，約88％が本システムを通して和服に対する興味がわいたと回答したため，本システムの有用性を確認することができた．

ジェスチャコントローラを用いたバイク操縦シミュレーションの提案

現在，バイクなどのシミュレータが普及してきているが，それらを体験するためには大掛かりな設備が必要である．本研究では，簡易的なバイク乗車体験を行うことを目的とし，腕の動作で実際の挙動に近い動作を行えるバイクシミュレータの開発をした．バイクを傾けて曲がる操作を再現するため，加速度センサより取得できる三軸加速度から右腕の回転角度の算出を行い，算出した角度を車体の傾きとハンドルの傾きに割り当てた．車体の傾きとハンドルの向きは実際のバイクの挙動に近くするため，速度によって反映する角度が変化するようにした．バイク経験者，未経験者を含めた7名の被験者にシステムの操作性，面白さ，バイクに対する興味喚起の質問を行った．その結果から興味喚起に関する質問には肯定的意見を聞くことが出来たが，操作性に対して改善点が存在し，今後の課題とする．

モーションデータを用いた人体動作の可視化に関する研究

近年モーションキャプチャ技術の発展によって人間の動きを簡単にかつ正確にとらえられるようになった．本研究の目的はスポーツやダンスの技術向上を支援することである．そこで光学式モーションキャプチャシステムによって得られた動作の特徴を3次元コンピュータグラフィクスで可視化するシステムを開発した．ユーザはモーションだけでなく可視化したい特徴と身体部位を選択することができる．また，本システムはユーザが実測マーカを使用して仮想マーカを作ることができる．仮想マーカとして身体重心位置を可視化することができる．さらに，アニメーションは運動学的分析で使用するために前額面または矢状面に投影することができる．同時に複数の人の動作を表示することによって，同一人物の異なる期間のデータを比較したり，初心者と上級者との比較ができる．本システムを使用して継時比較をするために一人の女性ダンサー取得したバレエのアラベスクを分析した．トレーニングを積むにつれて股関節の内転角度と骨盤の横方向の傾斜が増加することを確認した．また，ダンサーが体幹を後ろに傾けながらつま先立ちしていることがわかった．可視化システムの有用性を評価するためにソフトボールのウィンドミル投法のデータを使用して本システムを利用してもらった．最もわかりやすかった可視化特徴は点の軌跡だということがわかった．

中平将，曽我麻佐子，小田邦彦，取得時期の異なるモーションデータを用いたバレエ動作の比較，情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ，Vol. 2018-CH-116，No.8，pp.1-4，2018
中平将，曽我麻佐子，人体モーションデータを用いた特徴量可視化システムの試作，電気関係学会関西連合大会，G13-2，2017.11
S.Nakadaira, A.Soga, K.Oda, A System to Support Kinematic Analysis by Visualizing Human Motion with CG, IWAIT2019, 2019

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